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最新の脳科学xヨガの効果

10年ぐらい前に、私は龍村修さんを被験者に脳科学データを取らせてもらった。東邦大学医学部で坐禅の脳科学研究を行なっていた時である。当初、呼吸法実験の被験者として、坐禅を日々実践するお坊さんを対象にしていた。ところが、呼吸法を伴う様々な行動によっても、同じ脳内変化が発現することに気づいた。すなわち、お経を唱える行、尺八やサックスを吹く行為、歌唱、太極拳など、その行動に呼吸法が組み込まれている場合には、共通の脳内変化が起こることを見出した。当然、ヨガにもストレッチ運動に伴って、呼吸法が組み込まれている。私は、日本ヨガ連盟の講演を通じて、龍村さんと知りあい、脳科学研究にご協力頂いた。龍村さんは、その際、ストレッチ動作を行わない丹田呼吸法を実践された。得られた脳内変化は、私が明らかにしてきた脳科学データを裏づけるものであった。

すなわち、脳幹にあるセロトニン神経の活性化を示すエビデンスとして、呼吸法直後に血中のセロトニン濃度の増加が認められた。脳幹にあるセロトニン神経は脳全体に軸索というケーブルを介してセロトニンを分泌させ、次の6つの脳機能(図1)に影響を与えることが明らかになっている。

具体的には以下の脳機能変化がセロトニン神経の活性化と共に認められた。

 

1.脳波に特別なα波(α2)を出現させ、クールな覚醒状態が作り出される(大脳皮質への影響)。
2.心理テストを実施すると、ネガティブな気分(緊張・不安、うつ気分など)が改善される(大脳辺縁系への影響)
3.自律神経への影響として、交感神経と副交感神経のバランスを整える効果が認められる。
4.姿勢筋の緊張を高め、顔つき・姿勢をシャキッとさせる。
5.痛みの伝導を抑える鎮痛効果を発揮させる。
6.チャクラの部位(前部前頭前野)の血流を増やし、直感・共感の脳機能を賦活させる。

 

この脳内変化は、呼吸法を日々実践している人々で証明されたわけですが、この結果を踏まえて、普段、呼吸法を実践していない、いわば素人の被験者(医学部の学生や若手研究者)でも、同じような脳内変化が発現するかを検証した。その際、呼吸法が「生きる呼吸」とどう違うかを明確に区別して、被験者に教える必要があった。

 

 

私たちは生まれてから死ぬまで夜寝ている時も呼吸を続けている。5分間呼吸が止まると、死ぬので、全身の細胞が正常に活動を維持できるよう、常に空気中の酸素を肺から取り込まなければならない。この「生きる呼吸」は、無意識のうちに実施され、呼吸中枢が24時間体制で「吸えー」という指令を主に横隔膜に発している。その吸気指令が止むと、肺から呼吸ガスが自然に吐き出される。これが自律機能としての「生きる呼吸」である。

 

他方、脳内にセロトニン分泌を促す呼吸法は、「生きる呼吸」とは次の点で異なる。寝ているときには呼吸法は実施できないので、大脳からの意識的な指令が不可欠です。すなわち、大脳から「吐けー」という随意的指令が発せられることによって、腹筋が収縮し、下腹部(丹田)が凹みます。それをゆっくりと深く行う。その指令が止むと、ふいごが膨らむように吸気が起こる。これが呼吸法です。最初に吐く動作が起こる。したがって、素人の方が呼吸法を実施する際には、腹筋の筋電図をモニターして、眼前に見せてやりました。視覚によるバイオフィードバック法です。これによって被験者は確実に自分が呼吸法を実践していることを確認できます。このようにして、素人が初めて呼吸法を行っても、セロトニン神経を活性化し、それによる脳内変化が検出されたのです。

 

なお、呼吸法を実施すると、5分ぐらいから脳内変化が出現しますが、その高いセロトニン状態は、呼吸法終了後せいぜい1時間ぐらいしか続きません。呼吸法という運動負荷に対する反応でしかないのです。ところが、継続して呼吸法を実践し続けると、セロトニン神経に構造的な変化が現れてきます。

セロトニン分泌が人並み以上に高い脳に鍛えられるのです。それが、ヨガや坐禅を日々実践し続ける意義です。頭がスッキリ、心がスッキリ、体がスッキリした状態が日常的に味わえるようになるのです。それだけではなく、姿勢や顔つきもシャキッとして、スリムで若々しくなります。

 

セロトニンは別名「ハッピーホルモン」と言われます。それはこのような脳科学的エビデンスに裏付けられています。鬱傾向にある人々を薬によらずに元気にさせる効果も期待されます。

 

文責:セロトニンDojo代表 有田秀穂

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